建築学科生らが、文化財的価値を維持する再生補修を実施
田村研究室(建築学科)の学生らは、2022年2月1日と2日に、伊豆市湯ヶ島に明治初期から建つ家で漆喰壁の補修を行いました。文化財的価値を維持するための保存再生工事です。
この建物「上(かみ)の家」は文豪・井上靖の母の実家です。壁や梁などの老朽化が顕著で、伊豆市の委託を受けて西森研究室(建築デザイン学科)と田村研究室(建築学科)が改修し、11月23日にお披露目しましたが、文化的な価値を保つため田村研究室は旧来の土壁・漆喰壁の補修を続けています。この日は、漆喰壁の補修となまこ外壁の汚れ部の削りだしを行いました。
漆喰壁は、建築当時の状態が広範囲で残る貴重な部分です。なまこ壁は、象徴的な外観を保つために無くてはならないものです。いずれも、これまでに何回か部分補修が行われていますが、伝統的な当初材料とは違う材料が使われてきました。今回は文化継承の観点を重視し、田村研究室は、昨年から訪問するたびに現地で拾い集めた壁土を大学八王子キャンパスに持ち帰り、材料を分析。既存の土壁と同等の材料を混ぜ合わせ、さらに、壁土の乾燥化に伴うはがれ防止を目的に接着力が高まる成分を加え、現存する壁と親和性の良い壁土を作り出しました。今回は、それを漆喰壁の土台部における剥落部分に荒壁を入れ込む作業が大半を占めました。
作業の前後には伊豆市の担当者が様子を見に来てくださり、行政としての計画や、文化性を維持したい一方で、現代の材料を使ってきれいにするだけにもいかない悩みを聞く機会にも恵まれました。乾燥後の仕上がりの様子などを見ながら、田村研究室はあと数回補修作業を続ける予定です。
学生コメント
- 建築材料の講義で教わっていた土壁作りの工程を、実際に補修作業で体験できました。
- 土壁の材料に直接触れたり、土壁の表面硬度を測定したり、さらになまこ壁の表面を削ったりするなど、短い時間でしたが土壁保存改修に携わることができて嬉しかったです。
- 建物の歴史を保ちつつ、どのように現代の材料を取り入れて改修し、後世に残していくべきなのかを考えなくてはいけないなと感じました。
- 八王子実験室で、先輩方の卒論データなどを参考に材料の調合などを決め、スサなども十分に発酵させて作った壁土です。それを文化財級の建物に使い、この後ずっと残っていくことを考えると、責任も重大ですが誇らしいです。
- 明治初期に作られた小舞(こまい)*や土台などの傷み具合を確認しながら実物に触れて作業しました。前回補修した部分が,ひび割れもなく綺麗に固まっていて、安心しました。
(*小舞とは:竹などで格子状に編んだ、壁の芯になる部分。日本の伝統的な建物では小舞の両面に土を塗って壁を作った。)